EVENT REPORT

Withコロナ禍における外食産業グローバルミーティングレポート第二話

【提言②】
Withコロナによる
外食産業のニューノーマル。
キーワードは
「教育」と「DX」。

第一部では「食べること」の本質的な価値と意味について議論し、コロナによって多くの気づきがあったことがわかりました。第二部では、外食産業がどのような新しい価値を提供することがwithコロナにおけるニューノーマルなのか、それを紐解くキーワードは何なのかという詳細に迫ります。

コロナがあったからこそ
気づいたこと。
「飲食業はビジネスではない」

山田チカラ氏はとても興味深い切り口からコロナを捉えていた。

山田:コロナがあってきづいたこと。それはイノベーションとかではなく「原点回帰」。


人に料理を作って食べてもらうということはどういうことなのか?食を作ってお金をいただくとはどういうことなのかを考える機会をくれたと思います。飲食業はビジネスではない。ビジネスで考えるとどうしてもお金儲けや大きくすることが目的になってしまう。しかし大きくすることが目的ではない。ご近所様や周りの人たちに喜びを与えて維持できるものがあったらうれしいなぐらいがちょうどいい。

外食産業の「out of the box」

山田チカラ氏の意見に同調するように、リー・ホイリョン氏もこう語った。


リー:「out of the box」がこれからの外食のキーワード
コロナがあったからこそ生まれたこと、それは原点回帰。
飲食業界ってそもそも何ですか?ということを改めて考えることができるチャンス。シンガポールはコロナが去っていたので、危機をどうチャンスと考えるか、例えばデジタルを駆使したりビジネスモデルを変えたりと今までの箱を破る(=out of the box)ことができるかを試行錯誤している。デジタル化については、コロナを機にデジタルメニューやキャッシュレス決済などを導入することでランチが2回転しかできなかったものが3回転できるようになったとか、注文の手間が省けるなどいろんなところで外食のout of the box ができるようになってきた。外食はイートインと言う意味が強かったが、デリバリー、キッチンカー、ソースや調味料をつくるなどウェルビーイングとして人々の健康を考える産業と捉えたら新しい。ゲームやエンターテイメントという発想など再定義することのいいチャンスとなっている。

「食」の総合的価値の向上

外食産業という視点ではなく「食」を改めて見直すという視点から、重光悦枝氏、楊さちこ氏はこう語った。



重光:食の総合的価値
むかし父が、食は「人に良い」と書くと教えてくれた。よき食べ物がよきカラダをつくる。食べたもので体はつくられる。(パネリスト)皆さんの話を網羅してそれをもっとよく知り理解することが重要だと感じた。テクノロジーの発達などで今はそういった情報を伝えやすくなっている。食の価値がイノベーションで大きく変わっていく。

:中医学は病気にならないようにする予防の医学。今の時代コロナになりたくないので「ならないようにする」のがとても大事。重光さんのおっしゃるとおり、食べるは「人に良い」と書く。香港には「大きな薬」と「小さな薬」がある。大きな薬は「食」。人が病気になりかけたりしんどいときに、まず「食」でカラダを整える。整えられなくなって初めて本当の薬を服用する。365日、3回の食事でカラダにいいものをずっと食べていたらコロナにならない体になる、と思う。

「食」とは教育
なのに世界で日本食を教える
学校がどこにもない!

「食」という視点からの意見に対し、山田チカラ氏はここで大きく共感し、食に対する価値観と今後の食のあるべき姿について提言。多くのパネリストが賛同する。


山田食とは絶対に教育。生きるために必要で食べることはカラダをつくること。食育とか栄養学ということではない教育が必要。日本にこれだけフランスやイタリア料理があるのに、日本の食を教育する場所がない。日本ではどこの調理師学校に行ってもフランスもイタリア料理も学べる。そこで学んだ日本人がイタリアやフランスから食材を取り寄せる。海外にはそれがないから日本のことがアピールできない。料理をしていくプロセスの中でその文化のことを学んだりする。それやりながら精神性やカルチャーを理解する。

重光:先日アメリカ人の日本に住んでいる子で拒食症に悩んでいた人が日本食の「いただきます」の意味を知って拒食症を克服できた、という話を聞いた。命を「いただきます」ということがすばらしいこと、大切なことで、とても理解できて腑に落ちたから克服できたという。すごく感動的だった。

渡辺私も「学びの場」だと思います。

渡辺一行
農林水産省 大臣官房 政策課 企画官。京都大学法学部卒業後、金融機関、コンサルティング会社を経て、2011 年、農林水産省に入省。農林水産業の経営多角化や輸出の支援をする官民ファンド、地域の食や食文化をテーマとしたインバウンド誘致、組織の枠にとらわれずに新たな政策課題に取り組む政策OpenLabなど、官民パートナーシップによる取組に従事。

飲食業は今までサービス業だった。調理をアウトソーシングしたりする傾向が続いていた。どこでも食べられるといったファッションのようなところに行きかけていた。新型コロナで「食べること」を考え直す場、機会が増えた。しかし教えてくれる人やメンターがいないと深まらないときに、飲食店には食のプロがいて「つくる」「たべる」ということを気軽に学ぶ場所になる。そういうサービスになる。

岡添:コロナ直後は何もすることがなく、営業することが正義なのか悪なのかと考えていて、何かできることはないか考えていた。同じシェフ仲間と話し合って10万円の給付金を利用し、世の中にできることをということで医療従事者に弁当をつくり配った。その中で食のありがたみや大切さを少し伝えられたかなと。食は笑顔にできるものだと思う。そういうものを広げていきたい。コロナがそういうことに気づかせてくれた。日々業務をこなしていると、なかなかそこに立ち返ることは難しい。立ち止まって自分のやっていることの意義、意味、価値みたいなところを見つめる。スタートラインに戻った感覚。


コロナはデジタル化の
加速装置

一方で食という観点だけでなく、ヒトの根源的欲求に対する変化対応として「デジタル化」を挙げる意見も。

森本:コロナは命にかかわるもの。外食産業の人間としてお客様に来ていただきたいと考えた時に、テクノロジーは必要不可欠だなと痛感した。人情ってものすごく大事だが、(コロナのような)目に見えないウィルスに関してはどうしようもなく、だから世界中が困っている。テクノロジーのおかげで安心してお店にいけるというのは大切かな。


リー:キーワードは「デジタルヒューマン」
人とはなにか?食とはなにか?考えるきっかけになったが、おいしいものは食べたいし人とは話したい。コロナがあったとしても変わらないことはたくさんあって同じところにもどる。ヒューマンというのはどういう生命体かというのがわかった上で、コロナ前に進んできたデジタル化がコロナで10 倍ぐらい加速しそのままの勢いで伸びていく。その波にどう乗っていくのかが重要。なかなかない加速装置なので、この波をうまく利用できればよい。

渡辺:結局元の所にもどって変わらない。コロナを活かすことで前と同じだけどもっといいものというのが外食産業に出てくる。デジタルとかテクノロジーみたいなものをどう使っていけば関係を構築できるのだろうとか。生産地とテーブルの距離もそう。そういったものをいい社会や生活にしていくために「活かす」というのがキーワード。

before:美味しいものを食べる場所、気軽にいつでも行ける、いつでもどこでも誰とでも行く、味のおいしさ重視、不特定多数の人にきてもらう、効率化のためのデジタル化、外食産業→Withコロナ→after:ヒトとつながる場所、食を学ぶ場所、食で幸せを感じる場所、食べることを大切な時間として行く、本当に一緒に行きたいと思う時・場所・人と行く、真のおいしさとは何かを知ること重視、ご近所さんや馴染みの人にきてもらう、安心を担保するためのデジタル化、ウェルビーイング産業

コロナが教えてくれたこと

最後に、外食産業のグローバルリーダーと予防医学やウェルビーイングの専門家の視点から、コロナが教えてくれた外食産業のあるべき姿について意見をいただいた。

山田何も変わる必要はないということを教えてくれた。そういうことを考える時間をくれたコロナに感謝するぐらいでちょうどいい。何も変わらない。無理をしない。それが一番。
3月か4月にレストランが休業してしまい、生産者からつくったものの行き場がないという相談を受けて、自分が引き取ってそれを料理をしてボランティアみたいに配っていた。しばらく続けて、5月頃に生産者に状況を聞いたら「もう大丈夫だ」と言っていた。なぜならそんなに取りすぎなければいいし、つくりすぎなければいいだけの話だと。なのでみんな無理していた。それを抑えればいいことがわかったことがすばらしい。


岡添:思いやり。いろいろ考える時間が持てて、そこでコロナが出ているとかレストラン開けててどうだこうだとかちっちゃいことを考えず、みんなに寄り添える、それが食を通じて伝えられるきっかけができた。この場所に行って食べた方がいいんじゃないかとか。自分で高知に戻って高知料理やろうかなと。高知に行って高知のものを食べるということでいいじゃないか。そういうきっかけをくれたコロナにはある意味感謝。関係も考え方も深まった。世界中の人がもう少し人のことを思えるようになればもっといい世界になるのかなと。マイナスばかりではなくコロナのおかげという思考にもっていくことができたら。

森本最初はコロナに腹が立ったが、私はたくさんのことに気づくことができたので感謝している。これから先、前向いていかなきゃいけない。こういう形式で世界中の人が集まって議論ができたのもコロナのおかげ。こうやってみなさんといろんな業種の方とこれからもwith コロナの発展的な話をしていきたいと思う。

重光「創造的原点回帰」です。原点に返ってもう一度足元をしっかり見て考え、ミライを見つめる時間だった。その中から人は進化しなければならない。進化に寄り添える外食産業でありたい。


:昔から中国のお医者さんは4つあった。4番目が獣医、3番目が外科医、2番目が内科医、1番が「食医」だった。お金持ちでも権力があっても健康じゃないと何にもできない。健康を手に入れるために食べることにこだわる。おなかもいっぱいで健康も手に入る。すなわち一挙両得。

石川:コロナの中でかなり特殊だったのがロックダウン。ほかの感染症と大きな違い。多くの人類がステイホームを経験した。イギリスでコロナ後は国民全体の幸福は下がったが、ロックダウンで幸福度が上がった。なぜか?おそらく、ごはんは一人で食べるよりだれかと食べたほうがいい。これまでは忙しくてひとりで食べていた人が多かったのではないか?それがだれかと食べるようになったのではないかとみている。1 日3回の食事しかない中で、コロナが収まったら誰とごはんを食べに行こう?と思えるようになった。人と会うからにはお気に入りのレストランに行こうと思える。命は有限で時間も有限、食事の回数も限られる。少ない食事の機会を1人じゃなくどんな人と食べようかということを多くの人類が考え直すきっかけとなった。


 様々な視点の意見が集まった中、総合的にみると、パネリスト全員が前を向いていると感じた。飲食業はコロナで大きなダメージを受けつつも「コロナに感謝する」「コロナを機に原点回帰する」といったプラスをどうやって生み出していけるのかを皆が真剣に考えていることがわかった。最新のテクノロジーである「デジタル」と人の根源的欲求である「ヒューマン」をどうつないでいくのか?原点回帰が必要だが創造的にという、ある意味アクセルとブレーキを同時に踏むような矛盾を孕んだ表現だが、本質的な価値を整理した上で変化すべきところはテクノロジーを導入する必要性があるということ。
 無理をしないことの重要性を理解した上で、どういった仕組みがあればよい形になるのかを考えるためには「out of the box」的発想のクリエイティビティが必要だ。オープンイノベーションで多くの技術やアイデアを集め、いち早く社会実装しながら変化対応する仕組みが必要である。
 私たちニューノーマルデザイン推進協議会は、こういったリアルな現場の声や工夫をヒアリングするだけでなく、そういった活動を推進する人々を応援し、アイデアを出し合いアジャイルに進めていくために「ニューノーマルデザインアワード」の開催に向けて活動を推進してまいります。


構成・編集:中田晃博 デザイン:中西信児・土岐英寿
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